アサシンズ ロンドンリバイバル公演 まとめサイト
Assassins 2014-2015 Unofficial
ジョン・ウィルクス・ブース
リンカーンの暗殺者、ジョン・ウィルクス・ブースとはどんな人物なのか。アーロン・トヴェイトが演じた人物という先入観があるので、ちょっとロマンチック寄りにまとめました。
秀でた額、波打つ黒い髪、完璧なまでに均整のとれた若々しい肢体と、世界一美しい黒い瞳をもつアドニス、それがジョン・ウィルクス・ブースだ。（『マンハント―リンカーン暗殺犯を追った12日間』ジェイムズ・L. スワンソン, 早川書房,2006/10）
ジョン・ウィルクス・ブースは著名な演劇一家の一員で、荒削りの才能を秘めた才気煥発な彼は、大義のためなら名声も富も、前途ですら喜んで投げ打つ覚悟だった。ハンサムでカリスマ性のある彼のファンは北部にも南部にも何千といる。彼の美しさは、見る者すべてを驚嘆させた。（『マンハント』）
犯罪者として死ぬには、私の魂は偉大すぎる。
私がしたことはブルータスやウィリアム・テルを英雄にした行為ではないか。私はこの国の独裁者を倒したというのに、単なる人殺し扱いされている。私は何の個人的利益も求めていない。犯罪者として死ぬには、私の魂は偉大すぎる。（ジョン・ウィルクス・ブース）
弟、ジョン・ウィルクス・ブースはリッチモンドが陥落した時、その方角を向いて泣きながら「バージニア、バージニア」と叫んだ。まるで子を殺された父親のように。彼の理想郷、リッチモンドは、どんな女性より彼の心をつかんでいた。（エイジア・ブース・クラーク）
リンカーンの外見、家系、言葉遣い、軽薄さは、彼の就いている地位にとって恥辱である。国を治めているのはほかの優秀なスタッフで、リンカーンは彼らによって奴隷制を破壊するための道具に使われているに過ぎない。（ジョン・ウィルクス・ブース）
私は大統領就任式のときにリンカーンを殺すことも出来たのだ。私はあの日、式典の見物席にいた。私とリンカーンの間には、ほんの少しの距離しかなかった。（ジョン・ウィルクス・ブース）
殺人は恐るべき犯罪だが、リンカーンを排除したことを悔いてはいない。彼はこの国に悩みをもたらした。神が私の手を動かしたのだ。もうこの国はかつての国ではない。この強制された統合は私の愛した祖国の姿ではない。私は祖国の滅亡を見たくない。（ジョン・ウィルクス・ブース）
正しいにせよ間違っているにせよ、私を裁くのは神のみであり、人間ではない。私の動機がいいにしろ悪いにしろ、ひとつだけ確かなのは、北部は永遠に有罪であるということだ。（ジョン・ウィルクス・ブース）
兄 エドウィン・ブースについて
ジョン・ウィルクス・ブースも人気俳優でしたが、兄のエドウィン・ブースはそれをはるかに上回り、NYのブース劇場の名前の由来にもなった名優でした。
ブースのバラッドで「お兄さんに嫉妬していたのが原因じゃないのか？」とバラディアに皮肉られていたのもうなずけます。
「ブース・シアターは1913年、19世紀のアメリカ演劇史上最も有名なシェークスピア俳優、エドウィン・ブースにちなんで名付けられた。エドウィン・ブースはアメリカ人俳優として初めてイギリス王宮、ビクトリア女王の前で彼の当り役であるハムレットを演じたとして知られている、当時のアメリカが誇る文化人だった」
http://ameblo.jp/newyorkhistorycolumn/entry-10005364778.html
そしてこのブース劇場で2009年3月27日、アーロンがオリジナルキャストを務める「Next to Normal」開演。ご縁を感じます。
ブース劇場の歴史：https://vimeo.com/75530121
↑ラストがアーロンゲイブの歌声。ツイッタのお友だちに教えていただきました。
エドウィンはジョンのことを大切に思っていたようです。
暗殺の5年後、共犯者たちの恩赦が出たときに、弟の遺体と遺品を家族のもとに返してくれるようジョンソン大統領にあてて嘆願書を送りました。南部に対する締め付けが厳しかった当時、それが俳優という人気商売にとって、どれほど危険な行為かは十分承知していたでしょうに。
ブースの羅針盤
リンカーン暗殺現場となったフォード劇場の歴史博物館には、ブースの銃や日記が展示されています。
http://www.fords.org/home/plan-your-visit/daytime-visits-fords-theatre/museum/
それらの有名な遺品の脇に、彼が最期まで持っていた羅針盤があります。
1865年4月15日、リンカーンを暗殺したブースは、南部にたどり着けば彼の行動に賛同する住民が守ってくれる、と信じていました。しかし実際には、足の骨折のために逃避行の予定は大幅に狂い、治療を頼んだ医者からは巻き添えを恐れてにべもなく断られ、「犬のように狩られる」日が続きました。
4月24日、南軍の兵士と偽りギャレット家で温かいもてなしを受け、逃亡後初めてベッドでぐっすりと眠ることができた翌日、こんな姿を目撃されています。
ジョン・ウィルクス・ブースに栄光あれ。彼はこの世から独裁者を排除して、何世代にもわたって輝く人になった。この復讐者が無事南部に逃亡することができれば、そこであたたかい歓迎が待っているだろう。（ケイト・ストーン）
弟、ジョン・ウィルクス・ブースは、祖国を独裁者であるリンカーンから救ったものの、逆にその独裁者を殉教者につくり変え、歴史に偉大なる不滅の記念碑を立てることに加担してしまった。（エイジア・ブース・クラーク）
南北戦争名言bot (@nanboku_bot)
「ブルータス」への思い
暗殺前年の1864年、ブース兄弟は「ジュリアス・シーザー」の舞台に立っています。ブースがアントニー（左）、兄のエドウィンがブルータス（中）、長兄のジュニアスがシーザー（右）。兄弟が唯一共演した舞台は、大評判を呼びました。
ブースは自分を独裁者シーザーを倒したブルータスに喩えています。
兄エドウィンのようになりたかったの？と思っていたら、
ツイッタのお友だちが、大義のために行動したのはもちろんだけど、最後にアントニーがブルータスを表した言葉に一番大きな意味を見いだしていたのかと思う、と教えてくれました。
アントニー：
『ローマ人のなかで最高に高潔な人であった。
すべての謀反人たちは、ブルータスを除いて、
偉大なるシーザーへのねたみからやったのである。
ブルータスのみは、全体を見た私心のない考えから
万人に利する善から、仲間に加わったのである。
その生涯は気高く、諸元素は見事に
調和がとれていたので、造化の神は立ち上がり
全世界に告げることだろう「この男こそ誠に人間であった」と。』
http://james.3zoku.com/shakespeare/caesar/caesar5.5.html
ブースもいつかはこの様に理解されると願っていたのでは、と。
アサシンズのブースが史実通りに殺されるのではなく、自ら死を選ぶのも、彼が望んでいたブルータスのような死を、作者が叶えたのではないか、といわれ、なるほど！でした。
“よく晴れた美しい日だった、と１１歳のリチャード・ベイナム・ギャレットは語っている。
「とても明るくて、暖かい日だったよ。その年はいつもより春が来るのが早くて、庭の芝生がまるでビロードのようだった。家の前にある大きなりんごの木には、白い花がびっしり咲いていた」
ブースは小さな観客を相手にくつろいだ。
「お昼になるまでずっと、うちのお客はりんごの木の下に寝そべって、小さい子供たちと話したり、遊んだりしていた…ポケットから小さな羅針盤を取りだして、小さい子供たちに仕組みを説明した。そしてポケットナイフの先端を羅針盤の上で動かし、それにつれて針が動くのを見て子供たちが不思議がると、おかしそうに笑っていた」”（『マンハント』）
その夜、不審を抱いたギャレットに宿泊を断られ、タバコ小屋をあてがわれて密告され、騎兵隊に囲まれてブースは命を落とします。
フォード劇場博物館サイトのブースの羅針盤のページには、『マンハント』の最後の一節が引用されています
“ブースの小型羅針盤は、彼の残したほかの何よりも鮮やかに、捜索隊に追われた12日間の必死の逃亡を彷彿とさせる。
危険な日々の間彼を導いたのは、この羅針盤だった。トーマス・ジョーンズはこれに蝋燭の火を近づけて、ポトマック川の広大な黒い水面を渡り、どの方角に向かえばいいかをブースに教えた。
この羅針盤は彼が最後の目的地にたどり着くまで、常に南を指しつづけ、彼に希望を与えたのである。彼はこれを使って、ギャレット家の芝生で子どもたちを喜ばせた。ギャレット家のポーチに横たえられ、死にかけているブースのポケットから、捜査官たちが奪った羅針盤の青いスチールの針は、リンカーンの暗殺者を追って捜索が始まってからほぼ１世紀半を経たいまも、まだ軸の上で踊り、まだ南を指している。”